2つ目の病院



精神科を受けることを知っていた同僚が、朝、話し掛けてきました。

「昨日どうだった?」
「パニック障害やって。お薬もらった。」
「そっか〜」

診察の後、書いてもらった処方箋をもってすぐに薬局に行ってきました。
出されたのは抗不安薬と睡眠薬。
睡眠薬のおかげか、すぐに眠ることができました。
抗不安薬も効いたのか、電車にもドキドキすることなく乗れました。


でも・・・。


何かが足りないような気がしていました。


何か・・・。


自分でもわかりません。
お薬がもらえればいいと思っていたはずなのに。
何かが足りないと感じていたのです。

眠れるようになって、電車でもドキドキしなくなって・・・。
でも、まだ私の心の中は暗澹としていて晴れる気配すら感じられない・・・。

お薬だけでは解消されない何かがまだあるのを感じました。


「どうしたん?」
「診察のとき、あんまり話を聞いてもらえなかったなぁと思って。」


そうなのです。
私はもっと自分の話を聞いてもらえるのだと思っていました。
自分でも整理のついていないところもあるのだけど、
じっくり私の話を聞いて、そこから診断が下されるのだと思っていました。
でも実際には違っていた・・・。

先生が知っている病気を提案して、
それに私が無理やり合わせるような形で診断名がついた、
そんな感じだったのです。

私の現状とは少し離れた病名がついたような気がしていました。


「先生も人間やから、合う・合わんはあると思うよ。
私も今の病院に落ち着くまで3件回ったもん」


そうかぁ。そういうものなのかぁ。


なんとなく納得できた気がしました。
私は多分、先生の方針に納得ができなかったのです。
先生は私が話したいことをすべて聞いてくれたわけじゃない。
それなのに、診断されるのは納得いかない・・・。

いわゆる5分診療に納得がいかなかったのだと思います。

何よりも、この心の中の暗闇が全く解消されていない・・・。

誰かに話を聞いてもらいながら、
自分の心の中を整理したい・・・そんな感じだったのかもしれません。



ドクターショッピングをするつもりはなかったのですが、
この心の闇を晴らしたい一心で
できるだけ自分の希望に合いそうな病院を探し始めました。
ちょうど、脱線事故で負傷した方や、亡くなられた家族の方向けの
精神保健ダイヤルが設置され始めた頃でした。
私は県内にある某病院のダイヤルを選びました。
話を聞いた後で、診療を行う、
というスタンスの病院だったからです。

今の現状を紙に書き出し、できるだけ自分の状況を上手く伝えられるようにしてから電話しました。


対応してくださったのは、
後から分かったことだけど、社会福祉士さんでした。


その方は丁寧に私の話を聞いてくださいました。
話しながら、事故の後、あんなにもショックを受けていたのに、
一度も泣いていない自分に気づきました。
泣いてはいけない。
泣いたら何かが崩れてしまう・・・。
そんな恐怖がありました。
だからずっと泣くのを我慢してた・・・。


長い電話の後、実際に病院へ行ってみることが決まりました。
多分今の私には診察が必要だろうとのことでした。


数日後・・・。


その日は土曜日でした。
働く人や学校に通っている人のため、
その病院は休院日が日・月曜日になっていました。
その点も「いい病院だな」と思いました。


まずは社会福祉士さんが対応してくださいました。
偶然にも私が電話をかけたときに対応してくださった方で、
話はスムーズに進みました。
話しながら、何度も泣きそうになって、必死でこらえながら、
今辛いこと、苦しいこと、眠れないこと、悪夢を見ることなどを話しました。

彼女は私の長い長いとりとめのない話を穏やかに聞いてくれました。

「ここでは、まず私のような社会福祉士がお話を聞いて、
診察が必要なのかどうかを判断するんです。
そして、必要だと判断したら、診察に移ることになっています。
あなたの場合、診察が必要だと思いますので、
精神科医の先生に診てもらいますね。」

そんなことを言われました。
中には精神の病気ではなく、体の不調から精神症状が出る方がいらっしゃるそうで、
そういった方を見分ける最初の段階として、
社会福祉士さんが面談をされるのだそうです。


精神科医の先生に診てもらう・・・。


思いもよらない展開に少し動揺しました。
全く予期していないことだったのです。


「緊張なさらなくても大丈夫ですよ」


社会福祉士さんはにっこり笑って後押ししてくださいました。
この病院は安心して通えそう・・・そんな気がしました。




私は別の部屋へと案内されました。
しばらくして、精神科医の先生が現れました。
30台後半くらいのラフな格好をした先生。
近所のお兄ちゃんのような印象でした。

先生の第一声は今でも覚えています。


「怖い夢見たりして随分大変やったね」


この瞬間、初めて涙が出ました。
今までこらえていた涙。
それが止め処もなく流れました。


苦しかった。
辛かった。
でも誰にもいえなかった。
きっと誰もわかってくれないだろうと思ってた。
でも分かってくれる人がここにいる・・・。


先生は社会福祉士さんからあらかたの話を聞いていたようで、
話はスムーズに進みました。
先生は聞き上手で、ご自分から何かを言い出したり、決め付けたりすることはありませんでした。
強いて言うなら、私が話しやすいように、
時々質問を挟んでくれたりしました。
気が付くと、私は長い時間しゃべっていました。
眠れないこと、電車が怖いこと、辛いこと。
話しながら、少しずつ自分の中の何かを整理してゆくことができてきた気がしました。


この診察で先生は何か診断名をつけることはありませんでした。
ただ、私の話をひたすら傾聴し、うなずき、受け入れてくれました。


「お薬を出しておきましょうか。」



そういって診察は終わりました。
気が付くと1時間半も話していました。


随分心の中が軽くなった気がしました。
流れた涙の分、心の中にあったもやもやが取れたような感じです。
この病院に出会えた幸福に感謝せずにはいられませんでした。






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