【派遣のお仕事II】



この会社でこれ以上得られるものはあるのか?

派遣として今の会社に入って1年半。私はそんな疑問を持つようになった。製薬会社なので、医師でも薬剤師でも看護士でもない私は、「医学的知識」という意味でなら学ぶべき事はたくさんある。同じ派遣で共にがんばっているAさんの目的はまさにそれだ。では私はどうか?もちろんある程度の医学的知識は欲しいと思う。しかし、今から大学に行って医師になったり、薬剤師になりたい!と思える程の情熱も興味は持てなかった。一番私が興味を持っているもの・・・それは英語であり、翻訳・通訳である。それなくして医薬の勉強をしても、私には全く意味がない。翻訳をする上で、医薬の知識は決して邪魔にならない。そして、今の会社にいるのも、「副作用レポートの翻訳」という仕事があるからだった。しかし「英語」に主眼をおいて、今の仕事を考えたとき、最近疑問を感じるようになった。「この会社でこれ以上得られるものはあるのか?」と思うようになった。
入社当時は右も左も分からなかった。医薬業界独特の用語や言い回し、会社固有のシステムなど、それを覚えるだけでも大変だった。翻訳もままならず、訳しては直され、訳しては直され、赤ペン先生のごとく、私の作った症例票は真っ赤になって返ってきていた。しかし、1年半経った今だどうだろう?かつて3時間かけてできなかった仕事が30分足らずで出来る。特に英語に関しては「ここはどう訳したらいいと思いますか?」と相談されたり、新人さんを教える立場になってしまった。それはとてもいいことなのかもしれない。しかし、英語に主眼を置く私にとっては望ましくないことだった。相談されたり、教える立場になってしまったということは、そこで得られるものは少ない、ということだ。入社当時のようにガツガツと色んな事を覚え、吸収するということはなくなった。こういう訳し方をするんだ!という感激もなければ、単語の語尾がこういうのだったら、こういう語になるんだ!とかいう発見はなくなってしまった。それは長く勤めれば勤めるほど、当然のことなのかもしれない。教える立場になったなら、人を育てることを学ぶ絶好の機会かもしれない。相談されるなら、同僚としてよきアドバイスができる存在として成長していくことも大切なのかもしれない。しかし、そのどれも「英語」に主眼を置いたとき、決して魅力のあるものとは言えなかった。もちろん、私の人生の財産にはなるだろう。人として成長していくには素晴らしい機会なのかもしれない。しかし、今の私にとってそれらは「最優先事項」ではないのだ。
そうして、考えを巡らせるうち「このままこの会社にいてもいいものだろうか?」「もし辞めたとして、次にどんな仕事に就くことが私が翻訳家になったときキャリアとしてプラスになるのだろう?」と考えるようになった。
私には訳す分野がない。将来的に医薬分野を専門にやりたいか?というと、正直疑問だった。では、今自分は一番どんな分野を学べばいいんだろう?何をするのが一番いいんだろう?
残念ながら、その答えは出なかった。大学も外大、留学して英語を学び、英語のために今の会社に入り、英語が好きなだけで突っ走ってきた私に、訳す分野に結びつきそうな興味の持てるものが見つからなかったのだ。趣味ならある。しかし、訳す分野に結びつきそうなものはなかった。
考えた挙げ句、今まで出会ってきた人、仕事の中で、自分が一番してみたいなと思う仕事を考えてみた。そうしたら、ひとつあった。それは今働いているところの隣の部署がしていることだ。私は海外から送られてきたレポートを日本語に訳している。隣の部署はそれとは反対に、日本で起きた副作用レポートを英訳して海外に発信しているのだ。前々から隣の部署の人と話をしていて、私もやってみたいなぁと密かに思っていた。高校時代、Z会の黄色い英訳問題集を解いて「英訳の練習をしたら、英語力が格段に伸びたなぁ」と実感した経験もあったので、「隣の部の業務ができたら、英語力がもっと伸びるだろうなぁ」と漠然と思ったりもしていた。今まで気づかなかったのが不思議なくらいだが、そうやって考えてみると、隣の部署での仕事が、自分がしたい仕事なのかもしれない。今まで日本語訳をするため、多くの英文に触れてきたことは必ず役に立つだろうし、キャリアとして、製薬会社で英→日だけでなく、日→英もやっていました、というのは強みになるに違いない。・・・そう考えると、いよいよ自分が次にしたい仕事のように思えてきた。これは候補の1つになりそうだ。
その他に何かしたい仕事はないかと考えてみたが、やはり思いつかなかった。しかし、隣の部の仕事内容は、私が今の会社に入って初めて知ったことである。今の仕事も紹介されるまで全く知らなかった。派遣会社や就職支援サイトなどを見ていれば、もっと「これは!」と思える職に出会えるかもしれない。まずはどんな仕事があるか知ることが大切だ。そこから始めよう・・・。

ところで、翻訳家を目指すにあたって、今、私に一番必要なもの、もしくは一番欠けているものは何だろうか?それは英語力である。世間一般で言えば、そこそこ英語力がある方かもしれない。しかし、翻訳家という英語のプロを目指す人々の中では、私などまだ話すことを覚え始めたばかりの赤ん坊のようなものである。ほとんど英語力がないと言ってもいい。まず第一に英語力を延ばすことが、最重要課題であるといえよう。そのためにはどうすればよいのか?
中高生の頃は勉強だけしていればよかった。平日は学校から帰ってきてすぐ机に向かった。6時になれば母が「ご飯よ」と呼んでくれ、栄養満点の食事が出された。すぐに勉強に戻って10時にお風呂に入り、眠る。次の日は朝5時に起きて勉強し、7時に用意をして学校へ行く・・・そんな毎日だった。塾へ通い、勉強だけしていればよかった。しかし、今はそういう訳にいかない。食べていくために働かなければならないし、授業料を払うためにも働かなければいけない。勉強だけしていればいいなんていう甘い環境ではないのだ。自分の英語力向上につながる、より適切な仕事を選ぶのももちろんだが、もっと根本的な問題として、勉強する時間の確保も大切なことではないだろうか。
2003年10月、私は学校を休学することを決めた。1つ上のクラスに入り、学校の宿題や予習をするだけでも相当に時間がかかるようになってしまった。それと同時に仕事も目の回るような忙しさになった。製薬業界の方はご存知だと思うが、丁度この時期「電子報告」が始まり、新システムの導入、新しい報告方法に、会社全体がてんやわんやの大騒ぎだった。残業してもしても仕事が終わらない毎日。どうにか学校と仕事を両立させようとがんばったが、結局それはかなわなかった。
半年経った今、当時を冷静に振り返ってみて、私のいけなかった点は、何もかも完璧にしようとしたことにあるのではないかと思う。仕事も学校も完璧にしたい。でも、圧倒的な仕事量、課題の量に加え、時間的制約の前で、それは無理なことだった。何もかも完璧にできる人間なんていない。どこかで手を抜き、一番大切なところに力を入れる。メリハリをつけなければ、特に体の弱い私には社会人学生などやっていけるはずがないのだ。
自分にとって一番大切なこと・・・今は英語力の向上ではないかと思う。仕事は上記に示したように、転職しようかと考える程度になってしまった。ならば英語にかける時間を最優先に考えるようにしよう!今まではどんなに仕事を頼まれても、嫌と言わずに一人でがんばってきた。他の人が忙しいことも分かっていたから、どうしても頼めなかった。また、自分の勉強になるという一面もあったため、欲ばって一人で抱え込んでいた。まずそれを止めよう。人にうまく仕事を振り、残業せずに帰れる状況を作るようにしよう。そして、早く家に帰って英語を勉強する時間をしっかり取ろう。
残業に追われ、英語のための時間が減れば、当然翻訳家への道のりは遠く長いものになってしまう。ダラダラと仕事も勉強もどっちつかずで続けるよりは、どちらか一つに的を絞って、しっかり集中してやった方がいい。生活のために仕事を続けることは必要だが、夢の実現のため、今はしっかり英語に力を注ごう。

そう決めたとき、ふっと肩の力が抜け、背負っていた重荷がなくなったような気がした。勝手に自分で背負い込んでいたものがたくさんあったのかもしれない。今、それを自分で解き放つことができたような気がする。残業代がなくなるのはイタイが、長い目で見れば、さっさと翻訳の道を極めた方が、経済的にも有効だ。よし、そうしよう。

今の仕事に関していうと、仕事内容にもう魅力はないが、お給料という面では比較的いい。人間関係も良好で、仕事にも慣れていることから、学校が始まり、結婚式の準備や新生活が軌道に乗るまではよい環境と言える。少しずつ私の仕事を周りに振り、引継ぎをしたりしながら、残業が減るように、またいつ辞めても大丈夫なように少しずつ足元を固めていこうと思う。

これからは英語の向上を目標に、がんばっていきたい。

2004年春、新たな出発である。



2004.03.23現在






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