【進級テスト結果II】



「我が目を疑う」という言葉があるが、人間、あまりにも思いも寄らないことが目の前で起こると、理解するのに多少時間がかかるものらしい。

9月2日。春タームのリーディング授業最終日。まさにそんなことが私の身に起こった。
授業の終わり、先生から成績表が返された。テスト結果、担任2人の評価、そして進級出来たか、出来なかったかが書かれたものである。
1枚目。まず目に飛び込んできたのは
「会議通訳入門科I 翻訳基礎科」
という文字。それが私には理解できなかった。見つめること数秒・・・。その上に「あなたの来期受講可能クラスは下記の通りです」と書かれている。やっと文字の意味が理解できてきた。と、同時に「まさか!」という気持ちが湧きあがってきて、確かめずにはいられなかった。2枚目、3枚目をめくり、コトの真偽を確かめた。どれを見ても、結果は同じだった。信じられなかった。私は進級できたのだ!
テストの結果が平均点レベルだったことから、私はすっかり進級はダメであると思い込んでいた。残念ではあるが、今の実力はその程度であり、もう一度同じレベルのクラスでしっかり勉強し直す必要があるのだと思っていた。特にリスニング側には自分自身でも進級するには実力不足だと感じていた。それが進級できたのである!まさに「夢のよう」とはこのことだった。何度も書類を見直し、先生の評価を見て、「ああ、夢じゃないんだ」としみじみ喜びを噛みしめた。
嬉しかった。本当に嬉しかった。すっかりダメだと思っていたのが、進級できたのである。舞い上がらんばかりの気持ちだった。

全員に成績表が行き渡り、一通りみんなが目を通したのを確認すると、先生は全体的講評をされた。今回、進級できた人もいれば、できなかった人もいる。テストの点がよくても、講師点がよくなければ進級はできない。講師点は主に授業パフォーマンスから採点している。授業の出席率はもちろん、授業中の態度が大変重要である。講師も人間である。生徒の持っている能力をすべて見抜けるとは限らない。自分が得意な分野、できる分野はアピールするなどする必要もある。うちの学校はリスニング、リーディングの講師それぞれ講師2人が採点するが、先生によって採点が違うこともある。授業中、うまく自分をアピールすることも大切である。・・・そんな感じのお話だった・・・というか、そんな気がする。多分他にもっとたくさんお話してくださっていたと思うが、あまりにも自分が進級できたことが嬉しくて、すっかり舞い上がっていた私は、ろくに先生のおっしゃっていたことが耳に入らなかった。ただ、「自分をアピールしなければならない」という先生の言葉だけが心に残った。なぜなら、私は講師点が満点だったからである。

授業中、誰よりもやる気マンマンだった自信はある。予習もかなりしていった。質問はあらかじめメモにし、自分の分かっている部分、分かっていない部分を授業を受ける前までにはっきりさせておいた。そうすることで、先生への質問は簡潔にポイントを絞ってできた。先生からの問いで、自分が分かるものは積極的に答えた。日本人らしくなかったかもしれない。カナダでの経験がそうさせたのかもしれなかった。沈黙でただいたずらに授業時間がつぶれるのが嫌だったというのもある。そういった小さな努力の積み重ねが、うまくアピールにつながったのかもしれない。

進級に関しては講師点とテスト点の2種類がある。講師点は講師1人につき3点。2人いるので、満点は6点である。一方テスト点に関しては、リスニングが1点、ボキャブラリーが1点、グラマー1点、リーディング1点の計4点である。テスト点の方は、実力テストの結果からある基準点(平均点ではないらしい)を満たしていれば1点、満たしていなければ0点という計算をするらしい。講師点、テスト点の合計が、8点以上で進級となる。

私の成績表は講師点が満点の6点だった。先生2人ともに満点をもらえたことは、自分の努力が認められた気がして本当にうれしかった。それに対し、英語力は1点。合計7点であった。なんと1つの分野しか基準点を越えなかったということである。本来なら、進級できないはずである。しかし、進級に関して、テスト点が満点であっても、講師点がよくなければ進級できません、という記載はある。しかし、その反対はない。先生2人が話し合った結果、「リスニングの方が1点足りないだけだったので、進級ということにしました。」ということだった。
本当にギリギリのところで進級できたのだ。首の皮一枚で何とかつながった・・・という感じだろうか。前回イレギュラーにターム途中で進級したときの方が「進級すべくして進級した」「それだけの実力があった」と言えるかもしれない。今回は本当に危ないところで進級できたのだ。
同じクラスの文法マニアのおじさんは私に言った。
「君は留学もしてるエリートだからね。」
でも、本当はそんなこと全然ないのだ。私の英語力は進級するにはギリギリよりちょっと下くらいのモノで、かなり危ない橋を渡っているのだ。

成績表には、進級の有無を示す先程の点数表の他に、先生1人1人が書いてくれた細かい表が2枚あった。上の方は項目毎に評価されており、◎:特によい、○:特に問題なし、△:今後注意してほしい点の3段評価である。
私の成績は下記の通りである。

◎特によい点
文法:読解、聴解、ライティング、スピーキングに必要な知識。
基本構文:基本的な構文の知識。
発音/イントネーション:第三者が聞きやすい英語の読み方ができているかどうか。
文脈・意図の理解:まず、話の流れ・要点を把握する力
訳出力:読んで理解した内容を、できるだけ細かいところまで正確に訳出する力、訳出表現の自然さ。
予習:正確な解釈につなげるために、辞書で語句をしっかりと調べておくことができる力。
日英変換:元の日本語を正しく理解し、情報を正しく英語で伝えることができる力。
構文力:単語やフレーズではなく、フルセンテンスを正しい構文で表現することができる。正しい構文を立てる力。
細部の理解:要点だけでなく、その裏付けとなる詳しい情報も正確に聞き取る力。
リテンション:聞いた英語を発表するまでに情報を記憶できる力。
音の認識:英語の音を正確に聞き取る力。

△今後注意してほしい点
文法・構文の応用力:基礎知識があり、それを実際に使われている英文の中で、見抜き、解析する力
細部の理解:要点だけでなく、その裏付けとなる詳しい情報も正確に読みとる力
語彙:専門用語ではない、一般的な語句・フレーズの知識

学習姿勢について
・授業中特によく集中されていたと思います。
・提出物をいつも丁寧に仕上げられていました。
・ほぼ常にしっかりと予習できていると思いました。
・ご自分の疑問点を明確にすることができていました。

先生の講評:
【リーディングクラス】内容によっては構文が複雑になると小さな解釈ミスもありました。さらに多くの英文を読んで、自然な表現に慣れましょう。今回の修了判定については、実はテスト点が不足していましたが、ああと1点でボーダー点に達するということで、講師二人で相談の上、進級していただくことになりました。
【リスニングクラス】リスニングは情報量も多くて大変ようち思います。インタビューなどはスピーカーのポジション、支店を探りながら聞いていくとより説得力のあるアウトプットになると思います。

講師点満点をくれた先生であったが、やはり私の弱点はしっかり見抜いてらっしゃった。

後日、リスニング担当の先生とお話する機会があった。先生は「テストの結果は、問題ではない」とおっしゃった。テストでは実力を発揮できない人もいるし、特に今回のリスニングのテープはノイズが多く、状態もよくなかった。確かにあまりにも点数が足りないのは問題があるが、1点くらいならどうってことはない、それよりも授業パフォーマンスが大切だ、と強調された。私の欠点、弱点を指摘した上で、「あなたなら、必ず上のクラスに行ってもやっていけます。今と同じレベルのクラスをもう一度受けるより、上のクラスを受けた方が、絶対あなたのためになる。上のクラスに行って伸びる人です。それだけの能力とやる気があなたにはある。」とおっしゃってくださった。そして、それに関してはリーディング担当の先生とも意見が一致した、とのことだった。ありがたいお言葉だった。本当にもったいないくらいの、最高の言葉で、涙が出そうになった。

先生の期待を裏切らないためにも、新タームから新しいクラスで必死にがんばろうと思った。苦手箇所を克服し、必ずもっと上に上がってみせる。今までそうやって這い上がってきたし、これからも、がんばる。がんばるしかない。
翻訳家になる、という夢を実現するために・・・。






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