【就職】



 8月末、約1年半の留学を終えて帰国。
早速就職活動を始めた。ねらいは派遣社員。いわゆる「英語を使うお仕事」が希望だ。

留学前、私はお役所で働いていた。この職歴は専門があるようでない。翻訳をするには、専門分野が必要である。「専門分野を作るため、また翻訳の経験を積むため、派遣社員という手段を用いる人も多い。」と、翻訳・通訳関係の雑誌で読み、なるほどそういう手があるのかと実践したのだ。

就職活動は結構大変だった。派遣社員でもやはり経験者が優先される。英語が出来る人、更に特定の業界経験者はゴマンといて、何もない私になど、なかなか話しは回ってこなかった。派遣会社に登録へ行った時点で「ご希望の職種では経験者が優先になりますので、かなりご紹介が難しいかと思われます。」と言われることも多々あった。

「英語を使って」という部分を諦め、まずは専門分野を作ることだけに専念した方がいいんだろうか?例えば一般事務などで入っても業界経験者と言えるから、その辺で手を打って経験を積んだことにして・・・と考えたりしていた。
そんな時、就職の話がやってきた。
某大手製薬会社での翻訳のお仕事。降って沸いたような話だった。
「もちろん、英語の翻訳だけをしていただく訳では有りません。書類を作成したり、コピーを取ったり、日本語でのお仕事もあります。」
と言われたが、前述の雑誌に「最初は翻訳だけの仕事というのはまずない。雑用のようなこともしながら経験を積んでいくものだ。」というようなことが書かれており、「なるほど、あの記事はこういうことを言っていたのか。」と、妙に納得してしまった。(笑) 我ながら単純で感化されやすい人間だと思う。

まま、そんなこんなで希望の「英語を使ったお仕事」のできる「製薬会社」で働くことになった。
この時点で少し不安に思ったことは、製薬会社に就職すれば当然専門分野は「メディカル」ということになる。しかし、私には医薬の知識など全くない。将来の専門としてメディカルをやる気もなければ、できるとも思っていなかった。それなのに、「英語が使える」というだけで、就職してしまっていいものなのか?将来のキャリアプランとして経験分野「メディカル」は有効なのか?
悩んだものの、それでも就職したのは、資金が底を尽いていたこと、それまでの就職活動の中で、英語を使った仕事を得ることは非常に難しく、これを逃したらいつチャンスが巡ってくるか分からない、という不安のせいだったと思う。またその一方で、自分の全く知らない世界ではあるが、得られるものは必ずあるはずで、そこで得たことは決して無駄にはならないだろうという前向きな気持ちもあった。

この選択がよかったのか、悪かったのか、今は分からない。あと何年か、何十年か経って、その答えは分かるのだろう。

ところで、就職した後で分かったことだが、私のような翻訳の経験も業界経験もない者が入れたということは、ラッキーだったようだ。後に、カナダorニュージーランドに留学していた友達に、今私のしている仕事に応募しても、「経験が必要です」と断られる・・・という話しを聞いた。実際私も面接をしたとき、条件として「医薬業界経験者」というのが含まれていた。どこの業界でも経験が問われるのだなぁと、思った覚えがある。
しかし私が受けたとき面接官は「あ、これは気にしなくてもいいから。」とあっさり流した。それには会社の事情があった。
私の前任者は、英語圏の大学を卒業し、医薬業界の経験もある人だったそうだ。しかし派遣社員に与えられる仕事は、正社員程の権限はない。(会社によって違うらしいが。)彼女には物足りない仕事だったようだ。いつもつまらなさそうだったという。かといって、国内症例を頼もうとすると、英語の仕事ではないから・・・と、断られる・・・。会社としては、あまりに経験のある人でもちょっと困る・・・と思ったらしい。次の人は翻訳経験のない、医薬業界経験者が選ばれた。ところが、この後任になるはずだった人が、「明日から来ます」という前日に、突然「英語の訳をするのは自信がない・・・」と言って辞退してしまった。焦った派遣会社が慌てて探していたところに現れたのが私だった・・・らしい。英語はまぁまぁで、業界経験がないみたいだし、まあ丁度いいだろう、英語に自信がないと言って辞めることもないだろう・・・と思ったのかどうかは知らないが、会社の望んでいた人材と時期にうまくハマッたらしい。

こうして偶然に偶然が重なり、私は製薬会社に派遣社員として潜り込むことに成功した。






TOPページへ